公開日 2026年7月18日 最終更新日 2026年7月18日

近年、急成長を続けるV-POP市場。
2026年6月、この市場に7人組大型新人ボーイズグループ「UPRIZE(アップライズ)」がデビューした。
彼らのデビューミニアルバム「THĂNG」は、ストリーミング全盛の現代において予約販売で1万枚という歴史的快挙を成し遂げた。熱狂的なファンによるLED広告ジャックなども行われ、一部では凄まじい盛り上がりを見せている。
しかし、V-POP市場全体の「大衆への浸透度」という指標で測り直すと、厳しい現実が突きつけられる。
オンライン投票で不動の1位を獲得したBEXを筆頭に、累積スコアトップで歌唱・作曲までこなす多才なPN、グループのボーカルとパフォーマンスの要を担うLAVM、豊かな感情表現と高音域を誇るOD、卓越したダンススキルで魅せるWonbi、1.84mの長身と端正なルックスでステージを圧倒するDylan、幾度もの脱落の危機を乗り越えて最後の1枠に滑り込んだ「伝説の生存者」Leonが加わることで、完璧なバランスの7人組となった。
彼らは大手メディアYeaH1とSony Musicの合弁会社 SYE Holdingsの強力な資本のもと、韓国人トレーナーによる徹底したK–POP型トレーニングを経て、グローバル基準のクオリティを備えている。
UPRIZEのCDセールス記録は本物だが、「世間一般にどれだけ知られているか」を測る定量的指標を見ると、トップアーティストとの間には途方もない壁が存在。
2026年7月時点におけるマス市場での人気指標を、ベトナムにおける音楽配信サービスの利用率が最も多いYouTubeで比較すると、その大衆的認知度の差は歴然としている。
V-POP界の絶対的王者であるトップソロアーティストのSơn Tùng M-TPは、YouTube登録者数が約1,200万人に達し、代表曲の最高再生回数は約4億5,360万回という圧倒的な記録を保持(Spotifyの月間リスナーは225万人)。
Z世代に大人気のラッパー HIEUTHUHAIは約140万人の登録者と数千万から1億回の再生数を記録(Spotifyの月間リスナーは約188万人)。
また、絶大な支持を集めるトップラッパーのĐenも500万人以上の登録者を抱え、数千万から1億回超えの再生数を連発(Spotifyの月間リスナーは約100万人)。
さらに、トップグループとして君臨するDa LABでさえ、約100万人の登録者と約1億9,460万回の最高再生回数を誇り、一般大衆に広く深く浸透(Spotifyの月間リスナーは約160万人)。
ベトナムの一般大衆が音楽を消費するマス市場では、Sơn Tùng M-TPやHIEUTHUHAIのようなソロアーティストが数千万〜数億回の再生と数百万〜1,000万人超の登録者を誇っている。
対して、UPRIZEの公式YouTube登録者数はわずか約2.6万人。MV再生回数も数十万回にとどまっている(Spotifyの月間リスナーは約10万人)。
現時点でのUPRIZEは、V-POP市場全体から見れば「一部の熱狂的なファンだけが知っている新人」に過ぎず、大衆的認知は決定的に不足している状況だ。
従来のV-POP歌手の数億回再生は、カフェや街中で流され、一般大衆に「広く浅く」消費されることで生まれていた。
「広く浅く」消費されていた市場に風穴を開けたのが、2024年〜2025年にかけて大ヒットした大型音楽リアリティ番組「Anh Trai Vượt Ngàn Chông Gai」「Anh Trai “Say Hi”」などだ。
これにより、「ファンダム経済」がベトナムに根づいた絶好の機運の中、UPRIZEは誕生した。
過去のV-POP市場にも、「1088」「365daband」「Monstar」「Lip B」「LIME」「Uni5」といった一定の知名度を獲得したグループは存在した。しかし、その多くが数年で活動を停止、あるいはメンバーの脱退による事実上の解散に追い込まれている。
グループの運営には、育成費用や宿舎、複数人分の衣装など、ソロ歌手とは比較にならない先行投資が必要だ。
しかし、得られた収益を事務所とメンバー全員で分割すると個人の取り分が激減し、活動を維持するモチベーションを保てないという構造的欠陥があった。
K-POPでは、事務所が投じた莫大な育成費用を回収するため、7年といった長期の専属契約を結び、法的にグループ活動を縛るビジネスモデルが確立されている。
しかし、これまでのベトナム音楽業界には、こうした長期契約でグループという知的財産を保護し、長期間かけて投資を回収する法的・経済的なシステムが根付いていなかった。
その結果、特定のメンバーに人気が集中すると、より稼げるソロ活動へと独立してしまい、残されたグループが崩壊するケースが後を絶たなかったのだ。
このように、「お金がかかる割に儲からず、人気が出ると空中分解する」という経済的・構造的なハードルが高すぎたこと。これが、ベトナムにおいてグループが長らく“鬼門”とされてきた最大の理由だ。
過去のV-POPグループを崩壊させてきた「財務的破綻」「ソロ転向による脱退」「マス市場での敗北」「活躍の場の不足」という問題に対し、SYE Holdingsは、V-POPのビジネスモデルを根本からアップデートしている。
YeaH1 GroupとSony Musicの合弁による強力な資本力を背景に、多額の維持コストや制作費による「資金難」のリスクを初期段階で排除。韓国基準の高度なトレーニングノウハウを導入しつつ、Sonyが持つ世界100カ国以上のグローバル流通網を活用することで、国内の小さなパイの奪い合いを避け、世界市場へ直接アプローチできるインフラを構築している。
過去最大のグループ崩壊要因であった「人気メンバーの独立劇」は、タレントマネジメントの構造自体を再定義。SYEは番組の落選メンバーすらソロアーティストとして自社で抱え、育成する体制を整えている。これにより、将来的にUPRIZEのメンバーがソロ活動を希望した場合でも、外部へ独立する必要なく、自社のインフラ内でグループ活動とソロ活動を安全に両立できるエコシステムが担保されている。
強大なソロアーティストと「再生回数」というマス市場の指標で真正面から戦う前に、オーディション番組で培った熱狂的なファンダムによる「直接課金型ビジネス」を先行。ストリーミング主流の現代において1万枚の物理CDを即完売させるなど、高単価なファン消費を収益の柱に据えることで、莫大な先行投資を確実に回収する強固な経済基盤を築いている。
コストの高いグループは外部のイベント主催者から敬遠されやすいという弱点を、「自らステージを創出する」ことで克服。親会社であるYeaH1の強大なイベント制作力とスポンサーネットワークを活用し、デビュー初年度から全国スクールツアーや1万人規模の単独コンサートを企画。外部オファーに依存することなく、自社エコシステム内でメンバーに継続的な収益機会と活躍の場を供給し続けるロードマップを確約している。
UPRIZEは強固なファンダムによって初期の「経済的基盤」をクリアしたが、真の試練はここからだ。
この「ファンダム内の熱狂」を「国民的な人気」へと昇華させ、大衆的認知の壁を打ち破ることができるのかに、V-POP市場の新たな行方が懸かっていると言っても過言ではない。