公開日 2026年8月19日 最終更新日 2026年8月19日

ベトナムの音楽シーンで13年以上のキャリアを持ち、「民謡少女」として愛されてきた若手実力派シンガー Phương Mỹ Chiの新曲「Thiên đường với người thương」のMVが公開され、その映画のような美しい映像と、クメール文化の豊かな世界観が大きな反響を呼んでいる。
今回のMVは、これまでの彼女の作品とは異なり、「男女の恋愛」を物語の中心に据えている。しかし、そこにあるのはドラマチックな愛憎劇ではない。「Cõi thiên đường là ngồi đáy giếng với người mình yêu(愛する人と一緒であれば、たとえ井戸の底であっても、そこが自分にとっての楽園だ)」という印象的な歌詞が示すように、この曲における「楽園」とは、遠く離れた豪華な場所ではなく、愛する人と寄り添えるごく小さな、そして平和な空間を意味する。
物語は、ベトナム南部クメールのコミュニティで共に育った幼馴染の男女の軌跡を描いている。視線の交差し、プルメリアを手渡し、共にパルミラヤシの畑を歩く……。そうした日常のささやかな出来事の積み重ねが愛を育み、やがて二人が人生の伴侶となるまでの温かい物語が展開される。
このMVの最大の魅力は、ただの「背景」としてではなく、物語の重要な要素として組み込まれたベトナム南部のクメール文化の徹底した描写にある。
Phương Mỹ Chiは、単に伝統衣装を着るだけでなく、自らクメールの伝統舞踊である「ロムヴォン」や「ロバム」を披露。プロジェクトの文化監修を担当したThạch Thị Út Linh氏から直接指導を受け、基礎から習得した。彼女のしなやかな指先や柔らかな身のこなしは、ステージ上のポップシンガーとしての一面とは異なる、成熟した大人の女性の魅力を引き出している。
MVには、クメール文化を象徴する名所や風景が次々と登場。チャビン省のバオム池、ヴァムレイ寺、コ寺や、アンザン省のチャースーの森、パルミラヤシの畑などが詩的に描かれている。また、伝統的な結婚式のシーンでは、実際の儀式顧問の指導のもと、新郎新婦がジャスミンの花輪を交換し、赤い糸を結び合う神聖な儀式を忠実に再現した。

音楽面では、数々のヒット曲を生み出しているプロデュースチーム「DTAP」が制作を担当。現代的なコンテンポラリー・ポップスのリズムの中に、クメール文化の伝統的な響きが巧みに織り交ぜられている。
舟形の琴やゴングなど、五音音階の楽器群の音色をアレンジに取り入れ、現代性と伝統が見事に交差するサウンドを生み出した。さらに、大学の研究者や文化・儀式顧問といった専門家チームの監修を仰ぐことで、少数民族の文化を単なる表面的な装飾として消費するのではなく、深い敬意を持って作品に取り入れた。
このMVは単なる音楽作品の枠を超え、ベトナムの若者たちの間に「文化探求」という新たなムーブメントを巻き起こしている。
SNS上では、MVをきっかけにクメールの伝統文化や、ロケ地への観光、さらには現地のお祭りに対する関心が高まっており、MV内の伝統楽器や結婚式の儀式の意味について、SNS上でクメール族のユーザーが解説を書き込むなど、視聴者同士の自発的な文化交流も生まれ、音楽を入り口に、リアルな観光や自国の多様な文化遺産への関心を高めた。
自身の原点である南部民謡の世界観に回帰しつつ、クメール文化という新たなエッセンスを取り入れ、現代のポップアイコンとして見事にアップデートさせた「Thiên đường với người thương」は、彼女の表現力とベトナム文化の多様な美しさを堪能できる一曲となっている。