集客に苦戦!? P-POPライブ市場が抱える構造的課題

公開日 2026年5月7日 最終更新日 2026年5月7日

フィリピンの音楽シーンを牽引し、世界的な注目を集める「P-POP」。しかし、オンラインでの絶大な人気とは裏腹に、多くのグループの単独公演やフェスティバルにおける集客・チケット販売は深刻な苦戦を強いられている。

SNSのフォロワーは多いのに、なぜ集客に苦戦するのか?ファンを悩ませる4つの壁

(c) SB19 / Facebook

SB19やBINIといったトップグループが歴史的な完売記録を作る一方で、中堅グループの単独公演や追加公演、合同フェスティバルでは空席が目立つ現象が起きている。

中堅グループであるG22とVXONの例

公演名G22『THE EVE OF AN ALPHA』VXON『Kalawakan: The Evolution』
公演の特徴デビュー後初のソロコンサート2月に開催した初単独コンサートのスケールアップ公演
開催日2026年7月12日2026年6月27日
会場New Frontier TheaterNew Frontier Theater
最高額(SVIP)6,522ペソ5,800ペソ
最安額(Balcony)1,622ペソ850ペソ

お財布事情と「高すぎるチケット代」の壁

一番の悩みは、シンプルにファンの給料やお小遣いに対してチケット代が高すぎること。フィリピンの平均月収はSalary Explorerによると約44,800ペソと言われており、6,000ペソのチケットは生活費を大きく圧迫してしまう。トップグループになれば10,000ペソを超えることも珍しくない。これは決してファンが悪いのではなく、裏で価格を釣り上げる悪質なブローカーの存在や、高い税金、そしてダフ屋を取り締まれない古い法律などにより、無駄なコストがチケット代に上乗せされてしまっていることが根本的な原因だ。

会場アクセスと「チケット争奪戦」のストレス

なんとかお金を貯めても、次に待っているのがインフラやシステムの壁だ。

約5万5,000人を収容するフィリピンアリーナは交通アクセスが悪く、大渋滞でスムーズに帰宅できないという地獄のような体験をしたファンが多く存在し、このトラウマが「もうあそこには行きたくない」と購入をためらわせる大きな要因となっている。

また、チケット発売日にサーバーが落ちたり決済エラーになったりするシステムトラブルも日常茶飯事だ。

若い世代の資金力不足と「推ししか勝たん」の落とし穴

P-POPファンの中心は学生や若者を中心としたZ世代。彼らはTikTokやSNSで動画をバズらせる圧倒的な発信力を持っているが、まだ若いためチケットを何枚も買うような資金力はない。そのため、オンラインでの熱狂がそのままチケットの売上に直結しないというギャップが生まれている。

さらに、ファンダム同士の対立や「自分の推しグループ以外には興味がない」という傾向が強くなっていることも問題だ。TugatogやPPOPCONといった複数のグループが出演する豪華な合同フェスティバルを開催しても、そもそも行かない層が増え、結果としてフェス全体のチケットが売れ残る事態を招いている。

集客苦戦の典型例が、2022年7月に開催された「Tugatog Filipino Music Festival」だ。このイベントは、realmeなどをスポンサーに迎え、BGYO、BINI、MNL48、Alamat、PPOP Generation、1st.ONE、VXONなど、実に17組ものP-POPグループが出演。しかし、約2万人を収容可能な最高のアクセシビリティを誇るSM MOA Arenaで開催されたにもかかわらず、公式の発表による実際の動員数は約5,000人にとどまった。

主催者側の「見通しの甘さ」

イベントを企画する主催者側のマーケティング不足も大きな原因だ。ネット上の数百万回といった再生回数やフォロワー数だけを見て、巨大な会場でも簡単に埋まるだろうと勘違いし、需要に見合わない広さの会場や高すぎるチケット代を設定してしまうミスが頻発。ファンの本当の需要をデータで正確に分析したり、売れ行きに合わせて価格を柔軟に調整したりするような最新の工夫がまだまだ足りておらず、旧態依然としたやり方から抜け出せていないのが実情だ。

フィリピンの豊かな音楽的土壌の上に開花したP-POPは、文化的アイデンティティを再定義し、世界に誇るソフトパワーとなり得る巨大なポテンシャルを秘めている。しかし、その足元である国内市場において「持続可能なライブエンターテインメントのビジネスモデル」を確立できなければ、その歩みは失速を余儀なくされる。

P-POPがフィリピン国内にとどまらず、本当の意味で世界的なムーブメントになるためには、いまがまさに乗り越えるべき「過渡期」なのかもしれない。