公開日 2026年1月26日 最終更新日 2026年1月26日

カンボジアのエンタメシーンが、今、静かに、しかし確実に変わろうとしている。その中心にいるのが、韓国資本のエンターテインメント企業「K’ve Entertainment」。
かつてはカンボジアの王女も所属し、今や韓国の巨大事務所SMエンターテインメントも熱視線を送るというこの市場。
K’ve Entertainmentとは一体どんな会社なのか? その野心的な戦略とカンボジアのエンタメの未来を、徹底解剖する。
K’ve Entertainment(以下、K’ve)は、カンボジアの首都プノンペンに拠点を置く総合エンターテインメント企業だ。しかし、その正体はただの現地企業ではない。その核となるのは「韓国資本」であり、「韓国のエンタメ企業」であるというアイデンティティだ。
カンボジアでは絶大な人気を誇る「韓流」。その本家本元のノウハウを持つ企業が、現地で直接アーティストを育て、ビジネスを展開している。
この会社を率いているのが、ナ・ユンジョン氏。彼女は、カンボジアの有名人であるノロドム・ジェナ王女をスカウトした人物として知られ、まさに、K’veの頭脳であり、原動力。
ビジョンは明確だ。
「K-POPの成功モデルを、カンボジアで再現する」
体系的な育成システム、高品質な楽曲制作、洗練されたマーケティング戦略。これらすべてを輸入し、カンボジア市場に最適化することで、新たなスターを生み出そうとしているのだ。
K’veの強さは、その巧みなビジネスモデルにある。事業は大きく分けて二つの柱で成り立っており、それぞれが強力な相乗効果を生み出している。
K’veは、毎年開催される超人気イベント「昌原K-POPワールドフェスティバル」のカンボジア予選を主催する公式オーガナイザー。しかも、このイベントの後ろ盾は、在カンボジア大韓民国大使館。
政府とタッグを組むことで、K’veは絶大な信頼性と安定した収益基盤を獲得。これは、他のローカル企業が簡単に真似できない、非常に強力な「堀」となっている。単なるエンタメ企業ではなく、韓国のソフトパワーを担う文化外交のパートナーでもあるのだ。
もう一つの柱が、K-POPのノウハウをフル活用したタレントマネジメント。
K’veは、カンボジアの若き才能を発掘し、厳しいトレーニングを課し、K-POPクオリティの楽曲とMVでデビューさせる。まさに、あの世界的なアイドルたちが生まれるプロセスを、カンボジアで実践しているのだ。
さらに、K’veは韓国とカンボジアの「架け橋」としての役割も果たしている。最近では、韓国のボーイズグループNCHIVEのカンボジアプロモーションツアーを大成功させ、Facebookページはわずか1週間で5万人のフォロワーを獲得。現地の熱狂的なファンとメディアの注目を集めた。これは、K’veが国境を越えたプロモーションを遂行できる高い実力を持っていることの証明だ。
K’veの名をカンボジア全土に轟かせた最大の要因は、ノロドム・ジェナ王女との契約だった。
当時10歳にして、王室の血を引き、圧倒的な知名度とSNSフォロワーを持つ彼女の所属は、K’veにとってこれ以上ないほどの宣伝効果をもたらした。王女が韓国アイドルを目指し渡韓するのではないかというニュースは、国内外で大きな話題となり、K’veのブランド価値を飛躍的に高めたのだ。
しかし、その後ジェナ王女はK’veを離脱。この出来事は、K’veの戦略の脆さも浮き彫りにした。
たった一人のスターに依存することの「キーパーソン・リスク」だ。
王女がもたらした絶大な「ハロー効果」が失われた今、K’veは自社のビジネスモデルと、残されたアーティストたちの力だけで成功できることを証明しなければならない。これは、同社にとって最大の試練と言えるだろう。
K’veの最近の動きで最も注目すべきは、人材ポートフォリオの劇的な拡充だ。2025年12月、K’veは2名の専門MC、SamSamとSueSamとの専属契約を発表した。
韓国外国語大学の修士号を持ち、19年のキャリアを誇るベテランMCであるSamSamは、企業イベントや学校行事に圧倒的な熱量と笑いをもたらす存在だ。一方のSueSamは、米国留学を経て英語レクリエーションと通訳の双方をこなす国際派であり、官公庁やグローバル企業の式典において「言語と文化の壁を越える架け橋」としての役割を担う。
さらに、これに先駆けて専属契約を結んだバリトン歌手のイ・ソンイルの存在も欠かせない。アイドル文化が主流のカンボジアにおいて、クラシックのプロフェッショナルを抱えることは、富裕層や政府が主催するハイエンドなイベント市場を独占するための戦略的な布石といえる。
かつてK’veの象徴であったノロドム・ジェナ王女の離脱は、特定のスターに依存するビジネスモデルのリスクを浮き彫りにした。しかし、現在のK’veはその経験を糧に、より強固な組織へと進化を遂げている。
若年層のトレンドを牽引するのは、MINAやOMG、ONE TIMEといった「Cam-POP」アーティストたち。彼らがK-POP譲りの高いパフォーマンスで若者の支持を集める一方で、新加入のMC陣がB2Bの企業イベントやMICE市場での収益を支え、さらに声楽家のイ・ソンイルが国家レベルの式典に品位を添える。
このように、ターゲット層を「若者・企業・政府」の三方向に分散させることで、特定の個人に左右されない「総合コンテンツ・ソリューション企業」としての地位を確立しようとしている。
2024年、韓国の巨大事務所であるSM Entertainmentがカンボジア進出への意欲を示したことは、業界に緊張を走らせた。しかし、K’veに焦りはない。10年かけて築き上げた政府や地元企業とのコネクション、そしてクメール語と英語、韓国語を操る専門スタッフという「現場力」は、外資系巨人がすぐに模倣できるものではないからだ。
K’veの歩みは、カンボジアのエンタメ近代化の歩みそのものだ。アイドル育成から、プロフェッショナルなイベント運営、そしてハイエンドな芸術文化の提供へ。創立10周年という節目を迎え、彼らが開拓した「Cam-POP」の地平は、今や東南アジア全体を見据えた巨大なビジネス・プラットフォームへと進化しようとしている。