Wren Evans、2ndアルバム「NỔ」を電撃リリース

公開日 2026年1月6日 最終更新日 2026年1月6日

(c) Wren Evans / Facebook

2026年1月5日20時、V-POPシーンに激震が走った。

若き天才、Wren Evansが一切の事前告知なしに2ndフルアルバム「NỔ」を電撃リリースしたのだ。
20:00のリリース直前まで大規模なプロモーションをあえて行わず、「音楽そのもので語る」という戦略をとったWren Evans。その静かな自信が、タイトル通り「Nổ(爆発)」的な反響を呼んでいる。

2023年から2024年にかけて、アルバム「Loi Choi」でベトナム音楽シーンのトレンドを塗り替えたプロデューサーのitsnkと、再びタッグを組んで作り上げた本作。

先行シングル「Thu Đợi」や「Vừa Tìm Thấy Đã Đánh Mất」を含む全12曲を通して、より成熟し、尖り、そして思索深くなったWren Evansの「今」が刻まれている。

秋が連れてきた、静かな別れの物語「Thu đợi」

「Thu đợi」は、秋の別れをテーマにした、切なくも穏やかな旋律が印象的な楽曲だ。自伝的な歌詞と「心に刺さる無数の針」といった比喩表現を通じ、時の経過でも消えない孤独や未練を繊細に描き出している。過度に悲痛な演出はなく、静かで深い響きが、失恋の傷を抱える人々の心に優しく寄り添う。

若者の背中を軽やかに押す「Không Thử Sao Biết」

1曲目とは対照的に、アルバムに鮮やかなエネルギーを吹き込むのが「Không Thử Sao Biết」だ。タイトル通り「やってみなきゃわからない」という精神を反映したこの曲は、コンフォートゾーンを抜け出し、人生や愛を主体的に楽しもうとする若者の姿を象徴している。アップテンポなビートと現代的なアレンジに乗せて、迷いや後悔を振り払うような解放的なボーカルが、聴く者にポジティブな勇気を与えてくれる。

深夜の静寂に溶け込む「Ngủ Quên」

インディー・ポップの幻想的なムードを纏った「Ngủ Quên」は、深夜の静寂の中でふと自分の本音と向き合うような、内省的な楽曲だ。「寝過ごす」という言葉を、愛のタイミングを逃し、修復不可能なほどに心が離れてしまった二人の比喩として使用。囁くような歌声と、あえて抑えられたプロダクションが、失われていく愛への無力感と切なさを、よりリアルに浮かび上がらせている。

記憶の中で静かに燃える「Chờ Trong Trăng」

「Chờ Trong Trăng」は、月を再会や思い出の象徴として描いた、深く静かなバラードだ。激しい感情の吐露ではなく、凪いだ海のような静けさの中で、過ぎ去った愛を大切に守り続ける姿が描かれている。Wrenの柔らかな歌声が、静かに流れる月光のように、孤独な夜を過ごす人々の心に寄り添い、深い余韻を残す。

現代的な焦燥感を映し出した「144」

「144」という数字に、感情のループや執着を投影したこのトラックは、非常にモダンでスタイリッシュな仕上がりだ。浮遊感のあるメロディは、愛を渇望しながらも人間関係の脆さに不安を抱く、現代の若者特有の不安定な心理状態を見事に表現。クールで突き放したような表現の裏に隠された、深い孤独と焦燥感が、聴く者の心に強い共鳴を呼び起こす。

儚く散った恋の物語「Vừa Tìm Thấy Đã Đánh Mất」

2025年末に2番目に先行リリースされ話題を呼んだこの曲は、出会った瞬間に終わりが始まってしまったような、あまりにも短く切ない恋を描いている。互いに言葉にする勇気が持てず、ただ沈黙の中で手を離してしまった後悔が、美しいポップ・メロディに乗せて綴られている。itsnkとの完璧な連携によって生まれたこのトラックは、アルバム「NỔ」へと続く重要な架け橋となった。

繊細な恋の息吹を感じる「Gió Đưa Tình」

風に吹かれるような軽やかさと、どこか儚い余影を残す「Gió Đưa Tình」は、Wren Evansのミニマリズムが光る一曲だ。恋が始まったばかりの、言葉にするのも躊躇われるような繊細な震えを、風という比喩で表現している。技巧に頼らない素朴で誠実なボーカルが、かつて誰もが経験したことのある「純粋な愛の記憶」を呼び起こさせ、聴き手を甘酸っぱい郷愁へと誘う。

愛の再生と希望を歌う「Yêu 4 Real」

アルバムの10曲目に収録された「Yêu 4 Real」は、ダンス・ポップの弾けるようなリズムに乗せて、真実の愛に気づいた瞬間の高揚感を歌っている。自分にとって最も輝く星のような存在を見つけた喜びは、困難を乗り越える「治癒力」として描かれており、未来への希望を感じさせる。アルバムの中でも特に光に満ちたこの曲は、聴く人を温かく幸福なムードで包み込んでくれるだろう。

映画のような情景描写が光る「Nội Bài」

ハノイのノイバイ空港を舞台にした「Nội Bài」は、極めてシネマティックで、別れの予感に満ちた思索的なナンバーだ。単なる空間的な移動だけでなく、人間関係に生じた亀裂や距離感を、出発ゲートの冷たく重い空気感に重ね合わせている。Wrenのあえて抑揚を抑えた、どこか冷ややかなボーカルが、独り残される者の孤独と、美しくも残酷な別れの瞬間を精緻に描き出している。

象徴的なラストを飾るステートメント「Nổ không」

アルバムの最後を締めくくる「Nổ không?」は、トラップとヒップホップを融合させた非常にエネルギッシュな一曲だ。ここではアーティストとしての「奔放さ」と揺るぎない個性が爆発しており、自ら選んだ音楽の道を信じ抜く自信に満ち溢れた自己が描き出されている。未完成の夢を追い続け、音楽を「始まりの場所であり、帰るべき場所」と定義する彼の決意表明とも言えるこの曲は、アルバムのタイトルを回収する象徴的なトラックとなっている。

Wren Evansが「NỔ」で証明したもの

アルバム「NỔ」は、単なるヒット曲の詰め合わせではない。

一人の青年が、葛藤、孤独、自信、そして愛を経て、アーティストとして「爆発(NỔ)」する過程を記録したドキュメンタリーのようだ。

2026年のV-POPを語る上で、このアルバムを避けて通ることはできないだろう。