公開日 2025年10月5日 最終更新日 2025年10月6日
「なぜ今、世界の音楽業界がベトナムに注目しているのか?」
近年、ベトナムの音楽市場は爆発的な成長を遂げ、東南アジアの新たな主戦場として急速に浮上している。この熱い市場を見逃すまいと、世界の「3大メジャーレーベル」であるワーナー、ユニバーサル、ソニーがほぼ同時期に本格参入。三者三様の戦略で、次世代の音楽大国の覇権をめぐる熾烈な戦いを繰り広げている。
この記事では、急成長するベトナム音楽市場の現状と、大手レーベルが仕掛ける壮大な戦略を解き明かす。
ベトナム市場がこれほどまでに注目されるのには、いくつかの理由がある。
ベトナムの音楽収益は2023年に前年比21.5%増という驚くべき成長を記録。デジタルストリーミング市場は今後も拡大が見込まれており、眠れる巨大市場がついに目を覚ました形だ。
約1億人の人口を抱え、その多くが音楽に情熱を燃やす若者。しかし、ユーザー一人当たりの平均収益(ARPU)はわずか0.26ドル。多くの人にとって「音楽は無料」という意識が根強く、この「収益化の壁」をどう乗り越えるかが、成功への最大のカギとなっている。
ベトナムでは、音楽は耳で聴くだけでなく「目で見る」もの。YouTubeとTikTokが音楽発見と消費の圧倒的な中心地であり、バイラルヒットを生み出すにはビジュアル戦略が不可欠。国内ではZing MP3が根強い人気を誇り、若者の間ではSpotifyも急速にシェアを伸ばしている。
ベトナムは世界有数のK-POPファン大国。その影響は絶大で、V-POPの楽曲クオリティやアーティスト育成、ファンとの関わり方に大きな影響を与えている。このK-POPの成功モデルが、ベトナム市場のポテンシャルを証明する形となった。
同じ市場を狙いながらも、3社の戦略は驚くほど異なる。それぞれの個性的なアプローチを見ていこう。
3大メジャーの中で最も早く、2020年4月にベトナム法人を設立したのがワーナー・ミュージックだ。彼らの戦略は「ファーストムーバー・アドバンテージ」を最大限に活かすことだった。
ワーナーを追う形で2020年7月に参入したユニバーサル・ミュージックは、単独で乗り込むのではなく、現地の有力プレイヤーと手を組む「パートナーシップ戦略」を選択した。
地域統括体制を整備し、満を持して本格参入したのがソニー・ミュージック。彼らの戦略は、ダイヤの原石を探すのではなく、すでに輝いているダイヤモンドをさらに磨き上げる「スケール&アンプリファイ(拡大と増幅)」モデルだ。
指標 | ワーナー・ミュージック | ユニバーサル・ミュージック | ソニー・ミュージック |
キャッチフレーズ | 機敏なファーストムーバー | 戦略的エコシステム・ビルダー | 「優良株」を世界へ |
コア戦略 | インディーシーンを活用し信頼性を獲得 | 現地パートナーシップで才能育成 | 実績あるスターの成功を増幅 |
代表的アーティスト | Vũ、Chillies | Wren Evans、Da LAB | Hoàng Thùy Linh、Đức Phúc |
強み | スピードと文化的な信頼性 | 多様なネットワークとリスク分散 | グローバルなマーケティング力 |
3大メジャーの参入は、ベトナム音楽市場を新たなステージへと引き上げた。しかし、Sơn Tùng M-TPのようなスーパースターが率いる国内レーベルも依然として強力な存在感を放っている。
今後の課題は、無料ユーザーを有料サービスへどう導くかという「ARPU問題」や、著作権保護の徹底。
しかし、最大の注目点は、各社がV-POPを世界に届けることを目標に掲げていること。Hoàng Thùy Linhの成功は、V-POPがグローバルな魅力を持つことの証明となった。彼らのベトナムへの投資は、単に国内市場を狙うだけでなく、「ベトナムをK-POPに続く新たな音楽輸出国へ」という壮大な賭けなのだ。
ベトナムから世界を席巻する次世代のスターが生まれる日は、そう遠くないのかもしれない。