时代少年团 (TNT) と ALAMAT、アイドルが背負う “国の顔” 。C-POPとP-POPの最前線から見る文化的アイデンティティ

公開日 2025年10月6日 最終更新日 2025年10月6日

K-POPが世界の音楽チャートを席巻する今、アジア各地で独自の進化を遂げるポップミュージックが熱い視線を集めている。その中でも特に注目したいのが、中国の「C-POP」とフィリピンの「P-POP」だ。

単なる流行の模倣ではなく、自国の「文化」を武器に、世界へ新たな魅力を発信する彼ら。今回は、その最前線を走る2つのボーイズグループ、中国の时代少年团(Teens in Times, TNT)とフィリピンのALAMATを徹底比較。

彼らの音楽とパフォーマンスから、現代アジアのアイドルがどのように自国のアイデンティティを表現しているのか、その興味深い違いに迫りる。

ALAMAT:フィリピンの多様性を歌う “文化活動家” アイドル

(c) ALAMAT/Facebook

ALAMATの最大の特徴は、その成り立ちそのものにある。彼らは単なるポップグループではなく、フィリピンの「文化の守り手」としての使命を背負っている。

始まりから違った「多文化」グループ

ALAMATのオーディションには、驚くべき必須条件があった。それは「フィリピンの地方言語に堪能であること」。歌やダンスのスキル以前に、自らのルーツを語れることが求められたのだ。

その結果、カリンガ、パンパンガ、ダバオなど、それぞれ異なる文化的背景を持つメンバーが集結。彼らの存在自体が、フィリピンの「多様性の縮図」となっている。

  • 音楽: デビュー曲「kbye」では、なんと7つものフィリピンの言語を使用。ヒップホップやR&Bを基調としながら、クリンタン(伝統的なゴング)などの伝統楽器のサウンドを融合させ、唯一無二の「P-POP」サウンドを生み出している。
  • メッセージ: 彼らの歌は、時に社会への鋭い問いかけとなる。植民地時代の歴史をテーマにした「kasmala」、肌の色による差別(カラリズム)に切り込んだ「ABKD」など、その表現は「抗議としてのポップス」とも言えるだろう。
  • ビジュアル: ミュージックビデオではフィリピンの神話や民話を蘇らせ、ファッションでは現代のストリートウェアに伝統的な織物を取り入れるなど、視覚的にも自国の文化を色濃く反映している。

ALAMATは、フィリピンという国が持つ複雑で豊かな多文化性を「内側から」体現し、それを社会的なメッセージを発信する力に変えているのだ。

时代少年团 (TNT):壮大な中国の歴史を纏う “文化大使” アイドル

(c) 时代少年团/Weibo

一方、中国で絶大な人気を誇る时代少年团(TNT)は、ALAMATとは全く異なるアプローチで自国の文化を表現している。

彼らのキーワードは「国風」。これは、現代的なポップミュージックに、伝統的な中国の美学や要素を融合させるスタイルだ。

若者の代表が魅せる「壮大な美学」

TNTの第一のアイデンティティは、あくまで「現代中国の若者の代表」。その上で、特定の楽曲で「国風」という強力な「テーマ」を採用し、自国の文化を壮大に描き出す。

  • 音楽: 大ヒット曲「朱雀」では、モダンなビートに中国大鼓や古琴といった伝統楽器の音色を重ね、神話の世界を音楽で表現。歌詞にも古典的な詩を思わせる美しい言葉が散りばめられている。
  • 役割: 北京冬季オリンピックのテーマソングを担当するなど、国家的なイベントでパフォーマンスを披露することも多く、彼らは「文化大使」としての役割を担っている。その姿は、国内外に中国文化の魅力を発信する「ソフトパワー」そのものだ。
  • メッセージ: TNTが発するのは、ALAMATのような社会批評ではなく、「文化的祝祭」と「国家的プライド」だ。彼らのパフォーマンスは、中国の統一された豊かな歴史遺産を称賛し、若者世代に文化的な自信を与えることを目指している。

TNTは、中国という壮大な国家の歴史や美学を「応用」し、それを現代的で洗練されたエンターテインメントとして昇華させているのだ。

ポップスは「アイデンティティ」を語る鏡

フィリピンのALAMATと中国の时代少年团(TNT)。

一方は、国内の多様な声を拾い上げ、社会変革の力にしようとする「ボトムアップ」のアプローチ。

もう一方は、国の壮大な物語と連携し、文化的な誇りを世界に示す「トップダウン」のアプローチ。

この二つのグループは、どちらが優れているということではなく、それぞれが置かれた国の文脈の中で、ポップミュージックという表現手段を最大限に活用した結果と言えるだろう。

グローバル化が進む世界で、「自分たちは何者なのか」を問いかける「アイデンティティの政治」は、音楽シーンにおいてもますます重要になっている。彼らの活動は、21世紀のポップスが、単なるエンターテインメントに留まらず、伝統と現代、そしてアイデンティティを繋ぐための重要な舞台であることを示している。

次にあなたがアジアの音楽を聴くとき、その音楽にどんな「国の物語」が込められているのか、少し耳を澄ませてみてはいかがでしょうか?