3Pの旧正月ソング史:マレーシア華人文化を塗り替えた「踊る新年歌」の革命

公開日 2026年1月8日 最終更新日 2026年1月8日

(c) 3P / Facebook

中華圏全体を見渡しても、マレーシアほど「旧正月の歌」が独自の産業として発達している国は存在しない。伝統的な民謡が主流の他地域とは異なり、マレーシアでは毎年、アーティストやYouTuberが「オリジナルの新作」を発表することがアイデンティティの一部となっている。この独特な土壌において、2010年代後半から音楽シーンのランドスケープを完全に書き換えたのが、Kevin Ong、Danny Lee、Caven Tangからなるユニット「3P」だ。

デビュー作「21 Banluck」が投じた一石(2019年・亥年)

3Pの音楽性を理解する上で欠かせないのが、彼らのルーツであるストリートダンスだ。結成以前は著名なダンスチーム「Rejuvenate Dance Crew」の中核として活動していた彼らは、その高い身体能力を武器にYouTubeへと進出した。

2019年に発表された初のオリジナル新年歌「21 Banluck」は、当初はおふざけコンテンツとして制作されたものだった。しかし、旧正月の定番である賭け事(ブラックジャック)をテーマにし、親戚からの執拗な質問攻めや帰省ラッシュのストレスといった「若者のリアルな本音」をラップに乗せたことで、爆発的な共感を呼んだ。標準中国語だけでなく、福建語や英語が混ざり合う「生きた言葉」を使用したこの曲は、伝統的な新年歌へのアンチテーゼとして、新しい時代の幕開けを告げた。

パンデミック下の進化:EDMと多言語遊戯の確立(2020年〜2021年)

世界がコロナ禍に見舞われる中、3Pは音楽的な実験の手を緩めなかった。2020年の「年獣 (Nian Shou)」では、中国の伝説上の怪物を現代的な「野獣モード」と解釈し、重厚なベースラインが響くサウンドを導入。

続く2021年の「This Is Something 牛」では、干支の「牛(Niu)」と英語の「New」を掛けるなど、彼らの代名詞となる多言語の語呂合わせスタイルを確立する。政府による厳しい活動制限令(MCO)の下で制作されたこの曲は、社会の閉塞感を笑いに変えるパワーを持ち、単なるエンターテインメントを超えた存在感を示した。

黄金期の到来:1900万再生を記録した「Hu Else」(2022年・寅年)

3Pを不動の地位へと押し上げたのが、2022年の「Hu Else」だ。中国語で虎を意味する「虎(Hǔ)」と英語の「Who Else?(他に誰がいる?)」を掛けたこのタイトルには、自分たちがシーンの頂点であるという強烈な自負が込められていた。

YouTubeで1,920万回再生(2026年時点)を突破したこの楽曲は、TikTokでのダンスチャレンジを通じてバイラル化し、マレーシア中の若者がサビのダンスを模倣する社会現象を巻き起こした。彼らの地元であるクランの荒々しくも誇り高いアイデンティティ(Ah Beng文化)を洗練されたビジュアルアートへと昇華させたことで、アンチの声を実力で黙らせる圧倒的な説得力を提示したのだ。

家族愛と「我的妈呀」で見せた誠実さ

アグレッシブなスタイルで頂点に立った3Pは、2023年の卯年に大きな戦略的転換を図る。リリースされた「我的妈呀 (Wo De Ma Ya)」は、それまでの「俺様」的なイメージを覆し、「母親への感謝」という普遍的なテーマを打ち出した。

タイトルの「私の母(我的妈)」と感嘆詞の「オーマイゴッド(我的妈呀)」を掛け合わせたこの曲は、親孝行の大切さをメロディアスなポップサウンドで表現。この路線変更により、3Pは若者層だけでなく親世代からも「親しみやすく誠実なグループ」として認知されるようになり、ファン層を家族全体へと劇的に拡大させることに成功した。

国際化と国民統合(2024年〜2025年)

2024年と2025年、3Pの活動はさらなる多角化を見せる。シンガポールの暴牙菇と香港の伝説的スターである薛家燕をゲストに迎えた「好運一條龍」や「YES 蛇 (YES She)」は、世代を超えたアイコンの共演として大きな話題を呼んだ。

また、3Pはさらなる社会的意義を持つ一歩を踏み出す。 帰省ラッシュをテーマにした「南北大道」のマレー語バージョン「Syawal Tiba Berseri Seri」を、マレー系イスラム教徒の祝祭「ハリ・ラヤ」時期にリリースした。

これは、多民族国家マレーシアにおいて、音楽が「分断」ではなく「共有される喜び」であることを証明する歴史的な出来事となった。

2019年から2026年の最新作「Horseh」に至るまで、3Pはマレーシアの新年歌を「伝統の守護」から「革新の実験場」へと進化させた。彼らは「Ah Beng」と揶揄された地元の若者文化をクールなものへとリブランディングし、SNS時代に最適化された新しい祝祭の形を作り上げたのだ。2025年末のシンガポールインドアスタジアム公演の成功は、YouTubeから始まった彼らの旅が、アジアを代表するアーティストの規模に到達したことを証明している。

3Pの挑戦は、これからもマレーシアの新年を熱くし続けるだろう。